【渉外家事-1】総論 & 国際裁判管轄

ロンドン中心部にある王立裁判所(イングランド・ウェールズ控訴院及び高等法院、Royal Courts of Justice (通称RCJ))

はじめに-渉外事件における留意点

 国際離婚(夫婦の一方又は双方が外国籍を有する夫婦間の離婚)や国際相続など、家族に関する紛争のうちでも国際的な要素をもつ事件のことを、一般に、渉外家事事件と呼びます。渉外家事事件では、場合により、各国の法律を調査したり、外国の弁護士と協働又は意見を求めたりする必要が生じます。当職は、海外における法律事務所勤務と家族法研究の経験に加え、欧米諸国を中心に海外の家族法弁護士・研究者と交流があり、当職自身が直接海外の弁護士・研究者とやり取りすることが可能ですので、どうぞご遠慮なくご相談ください。

 さて、渉外家事事件では、その国際的要素にかんがみ、日本国内における紛争解決とは異なる問題を考慮する必要があります。それが、次に掲げる諸点です。本ブログでは国際裁判管轄についてご説明しますが、今後のブログでも、下記の諸点について説明していきます。

  • 共通事項
    • 国際裁判管轄 (←本ブログが扱う範囲
    • 準拠法
    • 送達手続
    • 外国判決の効力、承認・執行
    • (外国籍の方の場合)在留資格に及ぼす影響等
  • 個別
    • 渉外離婚(親権・面会交流・養育費など)
    • 渉外相続・遺言   
    • ハーグ条約

 なお、このシリーズでは主として、渉外家事事件における手続がどうなるのかという問題(手続法の問題)を扱うことになります。他方、例えば離婚事件で、日本の裁判所で日本法を適用して判断される場合の判断内容はどうなるのかのかという問題(実体法の問題)は、通常の離婚事件と基本的に変わりありません。この後者の問題については、「【家事事件】離婚」などのタイトルで事件内容ごとに説明しますので、そちらをご参照ください。 

国際裁判管轄

渉外家事事件を日本で解決したいと考えたとき、まず問題となるのが、その事件が日本の裁判所で審理又は裁判することが可能かどうか(=管轄が認められるかどうか)ということです。これが、国際裁判管轄と呼ばれる問題です。仮に日本の裁判所に管轄がないとなれば、管轄の認められる外国において裁判しなければならないことになります。

離婚や相続など、個別の問題はこれから順次見ていくことになりますが、一般論として押さえておきたいポイントは、以下の3点です。

  1. 法律に明文化されたこと
    国際裁判管轄について、近年法律が改正され、国際裁判管轄が明確に規定されました。すなわち、2018年4月25日に人事訴訟法等の一部を改正する法律(平成30年法律第20号)と呼ばれる法律が成立し(同年4月25日公布)、家族に関する紛争解決手続について定めた人事訴訟法と家事事件手続法と呼ばれる法律が改正されました。この改正によって、従来は、渉外家事事件については国際裁判管轄に関する規律について法律に明確な定めはなく、裁判所の判断に委ねられていましたが(特に離婚についての最高裁昭和39年3月25日及び同平成8年6月24日が重要な先例して機能してきました。)、上記の法律に明確に定められるに至りました。そのため、この最新の法律を踏まえて考えていく必要があります。
    条文としては、人事訴訟法第3条の2から第3条の5まで、家事事件手続法第3条の2から第3条の15まで、にそれぞれ規定がおかれていますので、興味のある方はご覧になってください。
  2. 合意管轄の制限
    通常の民事事件(損害賠償や貸金の返還など)では、当事者間の合意によって国際裁判管轄を定めることができます(民事訴訟法第3条の7)。しかし、渉外家事事件では、原則、当事者の合意で国際裁判管轄を決めることはできません。あくまで上記①の法令にのっとって、国際裁判管轄が定まります。ただし、例外として、以下の2つについては、合意による管轄を定めることができるとされています。
    ・遺産分割(家事事件手続法第3条の11第4項)
    ・家事調停(同法第3条の13)
  3. 特別事情による却下と緊急管轄
    国際裁判管轄が認められる場合でも、特に関係者の負担や子の利益などを考慮し、裁判所が申立ての全部又は一部を却下することができる場合があります(人事訴訟法第3条の5、家事事件手続法第3条の14)
    他方、国際裁判管轄の規定がない場合でも、当事者の衡平や適正かつ迅速な審理の実現確保のための特別の事情がある場合には、日本の裁判所に管轄が認められる場合があります。この緊急管轄については一般的な定めはありませんが、例えば、人事訴訟法第3条の2第7項には、この点が個別に現れています。
    【参考条文】
    (人事に関する訴えの管轄権)
    第3条の2 
    人事に関する訴えは、次の各号のいずれかに該当するときは、日本の裁判所に提起することができる。
    ①~⑥ 略
     日本国内に住所がある身分関係の当事者の一方からの訴えであって、他の一方が行方不明であるとき、他の一方の住所がある国においてされた当該訴えに係る身分関係と同一の身分関係についての訴えに係る確定した判決が日本国で効力を有しないときその他の日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があると認められるとき