【家事事件-1】 総論-1:家族とは何か

1.はじめに

 これから、家族法全般について、実務上特に問題となる点を中心にお伝えしていきたいと思います。ただし、具体的な問題を検討するまえに、家族法総論として、2回にわけて、家族とは何か、家族法の目的とは何か、をお伝えしたいと考えています。それは、日本の家族法が、どのような形態の人たちを「家族」として認識したうえで、家族法がいったい何を目的とし、何を保護しようとしているのかを理解することが、家族法の理解のうえで重要だからです。

 もっとも、日本の現行法の考え方が正しいかといえば、必ずしもそうとはいえないところもあります。私の考え方は、【理論探究】というタイトルのブログに書いています/いきますので、そちらもご参照ください。私自身は、弁護士として日本における家族法実務の経験のほか、英国とオーストラリアにおける家族法研究と英国の家族法専門法律事務所における勤務経験があり、それらの経験・知見も踏まえて、この【家事事件】及び【理論探究】を書いていこうと思います。

 この【家事事件】に関するブログの構成は、以下の内容を予定しています。

  • 総論:
    • 家族とは何か。(←今回のブログ)
    • 家族法の目的とは何か。
  • 各論(親族法)
    • 婚姻:成立と効果及びそれ以外の形態(内縁、事実婚、同性婚など)
    • 離婚①:成立
    • 離婚②:効果①(財産の問題を中心に)
    • 離婚③:効果②(上記以外。ただし、子の問題は下記で別途)
    • ドメスティックバイオレンス
    • 親子関係①:実親子関係
    • 親子関係②:養親子関係
    • 子をめぐる紛争①:親権・面会交流
    • 子をめぐる紛争②:上記以外
  • 各論(相続法)
    • 相続①:相続人
    • 相続②:相続財産
    • 相続③:相続分
    • 相続④:遺産分割
    • 遺言①:遺言の方式
    • 遺言②:遺言の執行
    • 遺言③:遺留分

2.家族とは何か-国が認識・保護する形態

 「家族」とはいったい何でしょうか。個々人にとってはそれほど難解な問いではないかもしれませんが、一般論として考えた場合には実はこれに対する唯一の答えというものは存在しません。

 例えば、「家族」といっても、様々な形態が想像できます。夫婦又は親子の単位に限られる場合もあれば、あるいは祖父母・孫を含む場合もあるでしょう。親類を含む場合もあるかもしれません。他方、いわゆる血縁とはいえない養親子やステップファミリーはどうなるのか、同性カップルはどうなのか。婚姻関係にない同棲カップル、内縁・事実婚と呼ばれる人たちはどうなのだろうか。犬や猫を飼っている方にとっては、動物たちはまさに「家族」そのものだとなるかもしれません。一夫多妻、一妻一夫制をとる文化があることも周知のとおりです。このように、実は「家族」といっても、決してきまった形態があるわけではないのです。

 しかし、日本法上は、ある種明確に「家族」として保護される人たちが決まっています。それは、異性婚・血縁を中心とする形態であり、逆にいえば、異性でないか、婚姻関係にないか、血縁でないか、そのいずれかにあたる人たちは、日本法上例外的な存在にすぎず、「家族」として保護の対象とならない場合もあります(なお、人間であることは当然の前提とされており、ペットは家族とは認められません。あくまで法律上の話です。)。

 これが当然なのかといえば、全くそうではありません。ご存知のとおり、欧米の多くの国では、同性婚が正式に認められ、婚姻という形態に拘らない人たちが多数を占めるに至っているうえ(異性婚中心主義からの脱却)、同性婚カップルをはじめ養子縁組が積極的に行われているのが現状であり(血縁主義からの脱却)、家族の形態はまさに多様化しています。欧州では、動物を人と同様に扱おうとする動きがあることをご存知の方もいるかもしれません。もちろん、欧米でもいまだ異性婚・血縁を基本原則する傾向はあるにはありますが、法制度上、日本と欧米諸国では大きく「家族」の定義が異なってきているわけです。

 何が言いたいかといえば、ある国の法律が「家族」としてどのような形態を認識・保護するのかは、決して何か固まったものがあるわけではなく、その国の政策や価値判断、法制度に大きく異存している、という事実なのです。これは、家族法の目的とは何かという問題と深くかかわります。家族法が何を保護しようとしているのかにより、「家族」の定義もまた変わりうるのです。

 こうしたことは、実は日本ではこれまであまり意識されてきませんでした。ようやく近年、LGBTQ+の権利が主張され、家族の多様化が認識され始めていますが、しかし、例えば家単位の戸籍制度(日本特有の制度です)や夫婦同氏強制に代表されるように、日本ではいまだ、異性婚・血族中心主義が根強く残っています。例えば、内縁の妻には、実体が婚姻夫婦と何ら変わりなくても、法律上相続権は認められません(遺言で遺贈をすることはもちろん可能です)。それは、上記のとおり日本の家族法が、婚姻関係にある人を保護することを主眼においているからです。

 以上のことは日本法をどのように理解し、あるいはどのように変えていくべきかを考えるうえで、なくてはならない視点です。次回は、家族法の目的とは何かについて、お伝えしたいと思います。